【レポート】ふるさと住民登録制度がもたらす地方創生へのインパクト(後編)

前編では、国が検討を進める「ふるさと住民登録制度」の概要や背景を整理し、Local Quest Labが取り組む領域の一つである「関係人口の創出・拡大」という視点からその期待と可能性、課題について考察しました。

期待としては、関係人口のプラットフォーム化により自治体とふるさと住民との接点が可視化され、参加イベントやボランティアを通じた関わり度のステップアップを示し、課題としては、単に登録者数の増加や利用頻度向上が目的化すると、制度の価値が失われるということを前編にて示しました。

人口減少が進む中、2014年に公布された「まち・ひと・しごと創生法」から10年を経て、次のフェーズに入った地方創生2.0は、これから地域との関わり方や暮らし方にどのような変化や効果をもたらすのか。

本レポート後編では、全国各地の自治体が先行して取り組んできた独自の「ふるさと住民制度」の事例を紐解き、制度をよりインパクトのある取り組みにするための論点にまで掘り下げていきます。

先行事例から見える自治体の工夫

国の制度化に先立ち、地方自治体では独自に「ふるさと住民票」や「ファンクラブ」などの名称で、関係人口を可視化する仕組みを試行してきました。その背景には、地方移住やワーケーション、二地域居住などライフスタイルの多様化に伴い、住所地以外の地域と関わりたい市というニーズが年々高まっていることと考えられます。各自治体の取り組みを整理すると、大きく以下の4つの類型に分けることができます。

1.住民登録・コミュニティ型

住民票に近い位置づけで、継続的な関与やコミュニティ参加を促すタイプです。
例えば、兵庫県丹波市は、市外在住者に「ふるさと住民票カード」を発行し、イベント情報の配信や市民料金での施設利用、パブリックコメントへの参加機会などを提供しています。登録者限定のポータルサイト「おかえり丹波」を開設し、交流人口の拡大から定住促進まで狙った取り組みです。また、茨城県行方市は、出身者や関心のある市外在住者に無料で「ふるさと住民カード」を送付し、公共施設の市民料金利用や広報誌送付、体験ツアー案内などを実施しています。
これらの取り組みは、登録証の交付や情報提供を通じてコミュニティ意識を高め、将来の移住定住や地域での副業・ボランティア活動などにつながる土壌をつくっていると考えられます。

*出典:おかえり丹波(URL:https://furusato-tamba.jp/

2.デジタル・Web3.0型

デジタルIDやNFTを活用し、地理的制約を超えた関係性を構築するタイプです。
人口約4,600人の山形県西川町は、2023年に1個1,000円の「デジタル住民票NFT」を限定1,000個販売し、わずか1分で完売しました。NFT保有者は町長も参加するオンラインコミュニティへ参加でき、温泉無料入浴券などユニークな特典が提供されています。また、新潟県長岡市山古志地域では錦鯉をモチーフにしたNFTアートの購入で「デジタル村民」になれる仕組みを導入し、DAO(自律分散型組織)の仕組みで地域の未来に関する意思決定に関われるようにしました。
これらの取り組みは、デジタル技術を用いて関与の履歴や貢献度を可視化し、将来的には行政サービスやポイント制度と連携するポテンシャルを持っていると考えられます。

*出典:西川町「西川町デジタル住民票NFT」(URL:https://www.town.nishikawa.yamagata.jp/soshiki/kasegu/4554.html

3.応援団・ファンクラブ型

住民登録よりライトな形で、まちのファンを可視化・組織化するタイプです。
山梨県富士吉田市はふるさと納税をきっかけに、寄附者と富士吉田市民との交流イベントを実施して関係を深化させています。また、宮崎県都城市の「都城市ファンクラブ」は、会員証に電子マネー機能を付けるなど、寄付とキャッシュレス決済を組み合わせて自治体とファンを結んでいます。
これらの取り組みは、ファンや寄付者を緩やかにコミュニティ化しつつ、地域経済への継続的貢献につなげていると考えられます。

*出典:富士吉田市 プレスリリース(URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000126597.html

4.プロジェクト・協働型

特定のプロジェクトや仕事への参加を通じて、実践的に関係を深化させるタイプです。
島根県海士町では、複業協同組合を通じて都市部の人材が離島の課題解決に専門スキルを提供する仕組みがあり、「複業」という形で深い関係性を築いています。また、岐阜県飛騨市では、「ヒダスケ」という飛騨市の人がちょっとやってみたいことや困りごとの種、アイデアが集まり誰でも参加できる、飛騨市と関わるためのプログラムを運営しています。
これらの取り組みは、制度化が進めば、登録者のプロジェクト参加が二地域居住や移住へとつながる可能性があります。

*出典:AMU WORK|海士町複業協同組合(URL:https://amu-work.com/

先行事例から導かれる本質的な論点

このような各自治体の事例を通して見えてきた本質的な論点は、前編の課題と重複するところはありますが、「登録という入口から、いかに関係の深化につなげるか」に集約されます。

国が検討する制度は、単なるファンクラブではなく、都市と地方の心理的・関係的なつながりを可視化し、継続的な関係構築に役立てることを目的としています。そのためには、以下の観点がキーポイントになると考えられます。

1.デジタルとリアルの融合

制度の登録や情報提供はデジタルプラットフォームで完結する想定でありますが、登録者が地域を訪問し、イベントや仕事などに参加するリアルな体験が不可欠です。丹波市や天草市が行っているように、登録時に「自分が市に協力できること・やりたいこと」を申告してもらい、自治体や地域団体がマッチングを行う仕組みが効果的です。オンラインでイベント案内や参加状況を管理しつつ、オフラインでは住民と顔の見える関係を築くなど、人と人のつながりをしっかり持つことが、制度を継続的な関与へと導くのではないでしょうか。

2.協働・共創を促す仕組みづくり

登録者が単なる自治体の顧客として扱われるのではなく、地域課題の解決や新しい価値創造などのプロジェクトに能動的に参加できる仕組みが重要です。プロジェクト・協働型の事例に見られるように、地域側も登録者のスキルや経験などに応じた役割・関わりしろを提示し、双方の学びと成果が得られる場を用意することで、関係は深まっていきます。自治体は、その仕組みを運用・運営するコーディネーターとして、地元企業やNPO、中間支援機関、大学機関など多様な主体と連携しながら「協働・共創のプラットフォーム」を設計することが求められるのではないでしょうか。

3.「体験価値」を中心としたインセンティブ設計

2008年に開始したふるさと納税制度は、返礼品や税優遇といったわかりやすいメリットがあったことで普及したと考えられます。その点において、ふるさと住民登録制度は情報発信や関与の機会を提供する内容が中心となるため、普及にあたってはふるさと納税同様に、登録者が得られるメリットをわかりやすく示すことです。例えば、登録者限定の地域ツアーやオンラインコミュニティでの交流会、具体的にここで使えるポイント制度など、「体験価値」を高める工夫です。また、NFT住民票のような限定性や希少性を組み込むことも有効かもしれません。ここで重要なことは、単発の特典やインセンティブに終わらせず、地域とともに成長する物語に登録者が主体として参加している実感の提供にあるのではないでしょうか。

自治体・中間支援組織・地域団体のアクションプラン

国は10年で1,000万人、将来的には1億人規模の登録を目指し、制度創設後、登録情報のデータ蓄積による関係人口の「見える化」や、登録者向けのサービス設計、民間サービスとの連携などを想定しています。

その方向性から、自治体や中間支援組織・地域団体が今から準備すべき具体的なアクションを考えていきます。

1.デジタル基盤の整備とデータ活用

オンラインでの登録が基本となり、本人確認や登録データの管理方法は今後の課題として優先度の高い項目です。自治体は国の統一プラットフォームに依存するだけでなく、既存の移住定住や地域おこしのサービス・プラットフォーム、民間アプリなどと連携してデータを活用できる体制を整えておくと良いと思われます。

2.地域と登録者をつなぐコーディネーターの育成 

登録者のニーズやスキル・経験などを理解し、地域との良質な関わりしろやマッチングをつくる人材が不可欠です。その役割は自治体職員だけでなく、NPOや地域団体、大学の研究者なども巻き込み、コンソーシアムを結成するなどチームで運営する体制を構築しておくと良いと思われます。

3.関与度を高めるプログラムの開発

登録者が地域課題解決や新しい価値創造などに挑戦できるプロジェクトやオンラインとオフラインを組み合わせたイベント・プログラムを企画し、参加履歴や貢献度を可視化・ポイント化するなど、参加と関与のステップアップを促す仕組みを導入しておくと良いと思われます。また、すでに関係人口創出やワーケーション、兼業・副業などのプロジェクトを実施している自治体は、その取り組みをベースに、参加(登録)者の実際の関与度合いを測る指標や方法を検討しておくと良いと思われます。

4.登録者メリットと地域経済の循環を両立する制度設計

前述のようなプロジェクトは強い関与であるため、参加する人数は限られると思われます。そのため、よりマス的な関与としては、ふるさと納税のような寄付や購買が中心となると考えられるため、登録者がこれらのアクションを通じて得たポイントを地域通貨として利用できるといった仕組みを導入するのが良いと思われます。都城市ファンクラブのようにキャッシュレス決済と寄付を連動させる方法も一つですし、石川県が検討しているような関係人口登録システムとの連携も一つと考えられます。また、地域経済の循環を考えるとしたら、地域外のビジネスとの協働による収益化という視点も必要かもしれません。

今後の展望とLocal Quest Labとしてのアクション

国はふるさと住民登録制度を通じて、関係人口の見える化を図り、登録者の住民税の一部を希望自治体へ分割納税する仕組みや地域の意思決定への参加制度も視野に入れています。しかし、個人情報の扱いと利用範囲、国主導での統一したプラットフォームと自治体の柔軟な運用・運営をどのように両立させるかといった課題はまだ残っていると思われます。

本制度の効果や影響を最大化するには、現場視点・レベルでの準備と制度・仕組みの設計の両輪が求められています。Local Quest Labは、「経済資本・文化資本・社会関係資本の3つの資本が豊かな個人と社会の実現」という理念のもと、地域との接点と循環をつくる事業と研究を行っています。

その観点で、本制度が目指す関係人口の可視化は単に数を増やすことではなく、人と地域の接点と循環を生み出すきっかけになると私たちは考えており、本制度に対して次のようなアクションができるかを考えてみたいと思います。

1.調査分析と情報発信

制度の運用・運営状況や各地域での取り組みを継続的に調査し、成功の要因や課題の分析を行い、広く世の中に発信すること。私たち含め、メディアによる情報発信を通じて、制度の本質的理解の促進と改善策の提示を図っていきます。

2.共創活動のファシリテート

登録者と地域を結ぶ共創プロジェクトを企画・運営し、地域課題の解決や新たな価値創造を伴走支援すること。また、オンラインコミュニティの設計やファシリテート、関係人口データの分析から具体的な活用方法の提示なども行っていきます。

3.ネットワーク構築・官民連携による中間支援

制度設計のフェーズから運用・運営のフェーズで、自治体側の現状や課題のヒアリングを行い、登録者の参加・関与が高まる施策を考えていきます。また、自治体やNPO、地域団体などとのネットワークを構築し、運用・運営のノウハウ共有や官民連携での取り組みを促進します。

おわりに

ふるさと住民登録制度は、単に「第2の住民票」を交付する仕組みにとどまらず、都市と地方が互いに学び合い、支え合う循環を生み出す効果が期待できます。

Local Quest Labは、登録という入口をゴールにせず、一人ひとりが主体的に自分だけの「ふるさと」を発見し、地域とともに未来をつくる物語として位置づけることが、本制度が地方創生におけるインパクト創出に必要なビジョンなのではないかと考えています。


執筆:萬里小路 忠昭

一般社団法人Local Quest Lab

〒401-0303

山梨県南都留郡富士河口湖町浅川1082-3
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