【レポート】地域住民や移住者が交わる ―ハイタッチから生まれる縁 ~富士河口湖町の町民交流運動会を事例に~

富士山の麓に広がる富士河口湖町。この町には今、移住してきた人と昔からこの土地に暮らす人とが、少しずつ距離を縮めながら一緒に町をつくっていく空気がある。

そのきっかけのひとつになっているのが、「町民交流運動会」でのワンシーン、勝敗のあとに自然と交わされる「ハイタッチ」だ。

今回はこの運動会を通して、地域住民と移住者が交わることの意味を、私、鈴木自身の体験から綴ってみたい。


一般社団法人Local Quest Lab 理事 鈴木斗樹
高校卒業後、地方自治体に入庁し、教育や産業振興に関わる部署に所属。住民対応の窓口業務や自治体内の小中学校に関わる業務、産業交流施設の活性化業務に8年間従事。2024年に山梨県富士河口湖町に移住し、河口湖湖畔にある創業100年を超える有限会社蓬莱家に転職。観光業を中心に、新事業の複合型レンタルスペース「ATRAVEAT」(アトラビート)のコミュニティマネージャーを務める。得意なことはコーディネートや場づくり。


わたしが山梨に移住した理由

私が山梨への移住を考え始めたのは、コロナ禍で趣味として始めたアウトドアがきっかけだった。キャンプや登山で山梨を数回訪れていくなかで、無意識にも山梨の暮らしを想像していた。

今の自分の暮らし方であれば、山梨でも問題なく暮らせるな。そんなことを漠然と考えていた。もともと地方移住には憧れがあり、「いつかできればいいな」という想いを持っていた。ただ当時、自分のイメージの中では遠い将来になると感じていた。

そのイメージをぐっと現実的にしてくれたのが、一般社団法人Local Quest Labの前身の団体にあたる「大洗クエスト」での経験だった。

もともとはアニメ趣味が高じて、聖地巡礼で訪れていた茨城県大洗町。そこで実施されていたまちづくりプログラム「Create Owarai」(クリエイト大洗)をきっかけに大洗クエストは結成され、プログラム終了後も大洗町でのイベントやプログラムに関わり続けた。

最初はいち観光客だった私が、何度も足を運ぶうちに、地元の方に顔を覚えてもらえるようになっていく。「あ、また来たんだね」。そう声をかけてもらえるようになったとき、この土地で暮らしていく楽しさを、はっきりと実感した。

「移住という言葉が自分の中で少しずつ大きくなり、どうせするなら早いほうがいいかもしれない」-そんな思いから、移住を決断するに至った。

そこからの行動は早く、山梨県内の自治体が集まる移住相談会に参加した。数あるブースが並ぶなかで、私が心を動かされたのは富士河口湖町の移住担当の方の人柄だった。

他の自治体の方とは違う熱量で「よかったら一度、東京で開催される現地の人との交流会に参加しませんか」-そう誘われたのが、私と富士河口湖町との最初の接点だった。そのイベントの後には何度か現地にも足を運び、リアルな暮らしの話や人との交流を楽しんだ。

「ここに住みたい」と、はっきりした決め手となる出来事があったわけではない。それでも、その後も何度か足を運ぶうちに、この町でなら暮らしていけそうだという具体的なイメージが、少しずつ自分の中に積み重なっていった。

もちろん、仕事や収入面の不安がなかったわけではない。それでも、実際にこの町で出会った人たちや流れる時間が、移住という決断を後押ししてくれた。

富士山暮らし応援隊としての活動

移住後、しばらく生活が落ち着いてきたころから、「富士山暮らし応援隊」として活動を始めた。これまでに、東京で開催された移住関連の展示会でのブースサポート、移住をテーマにしたイベントでのゲスト登壇、そして今回取り上げる町民交流運動会の運営サポートなど、さまざまな形で地域と関わってきた。

こうした活動の中で感じてきたのが、移住者と地域住民のあいだにある「見えない隔たり」だ。決して誰かが冷たくしているわけではない。それでも、地域の行事や集まりに参加していると、昔からのコミュニティの輪と、移住者同士の輪とが、なんとなく別々に存在しているように感じる瞬間があった。

この隔たりをどう溶かしていけるのか。移住者という立場から私自身も日々思うテーマでもある。そして、その答えのひとつを実感させてくれたのが、次に綴る町民交流運動会だった。

富士河口湖町民交流運動会の取り組み ―"ハイタッチ"が生んだ会話

2026年に開催された富士河口湖町民交流運動会は、前年の初開催に続く2回目の開催だった。私は運営スタッフとしてサポートに入りながら、同時に一参加者としても種目に加わるという、両方の立場でこの日に関わった。

特に印象に残っているのは、リレーなど、チームで力を合わせる協力プレー系の種目だ。普段は顔を合わせることもあまりない地域の方、子どもたちと同じチームになり、勝利に向けて声を掛け合ううちに、自然と距離が縮まっていくのを感じた。昨年も参加していた地域の方もいて、最初から打ち解けていくシーンもあった。

そして何より象徴的だったのが、「ハイタッチ」だ。競技を終え、自分たちのチームが勝った瞬間、誰からともなく手が挙がり、ハイタッチが交わされる。そのひとつのタッチをきっかけに、「今のはよかったですね」「勝ててよかった」といった会話が自然と生まれていった。これは今回に限った話ではない。前年の初開催のときも同じように、ハイタッチのあとに会話が弾む場面が数多くあった。

肩書きも、この町に暮らしてきた年数も関係ない。同じチームとして喜びを分かち合えるシンプルな瞬間——運動会というシンプルな仕組みだからこそ生まれる、この一体感こそが、この取り組みの一番の魅力だと感じている。

地域住民や移住者が交わることの意味・効果

運動会のあと、地域住民の方から「よかった」といった感想を直接言葉でもらったわけではない。それでも、会場に漂っていた空気から、楽しんでいたことは十分に伝わってきた。

今回生まれたつながりが、そのまま継続的な関係に発展したわけではない。けれど、それでいいのだとも思う。一度きりの出会いだったとしても、その場で交わされたハイタッチや会話は、確かにその瞬間、地域住民と移住者のあいだにあった見えない隔たりを、少しだけ溶かしてくれた。その一度の縁が近い将来何かに結び付くことがあるのでは。と実感する1日だった。

移住者が一方的に地域に受け入れてもらう、という関係ではない。お互いが新しい刺激を与え合いながら、この町をより良くしていく。そんな双方向の関係性が積み重なっていくことこそ、これからの富士河口湖町にとって大切な財産になっていくのではないだろうか。

町民交流運動会のような場は、そうした関係性が自然に育まれていく、貴重なきっかけだ。思えば、かつて大洗の町で何度も顔を覚えてもらいながら、関わる楽しさを教わったように、今度は富士河口湖町で、その楽しさを誰かに手渡す番なのかもしれない。

私自身、大きな肩書きを背負うのではなく、一住民として、これからも地域の人たちと地道に、いい関係を築いていきたいと思っている。


執筆:鈴木 斗樹

一般社団法人Local Quest Lab

〒401-0303

山梨県南都留郡富士河口湖町浅川1082-3
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