
今年度、私たちLocal Quest Labは茨城県大洗町から委託を受け、「令和7年度移住交流推進事業」を企画運営した。その中心となる取り組みは、2025年11月から2026年2月にかけて実施した「大洗二拠点居住体験ツアー」である。本取り組みで目指したのは、単なる観光案内ではない。
都市部などに普段暮らす人たちが、大洗を訪れる場所としてではなく、もう一つの暮らしを考えられる場所として捉え直すこと。そのために、情報発信、応募・相談、面談、現地体験、参加者の声の可視化までを一つの流れとして設計した。
結論、今年度の成果を一言で表すと、居住体験に参加した方々の認識が「観光地として知る大洗」から「暮らしの選択肢として考える大洗」へと変化したことだと、私たちは位置付けた。

近年、テレワークの普及や働き方の多様化を背景に、主な生活拠点とは別に地域との接点を持つ「二拠点居住」や、地域と継続的に関わる「関係人口」への関心が高まっている。今回の大洗町の事業も、いきなり移住を決めてもらうための施策ではなく、まずは地域と接点を持ち、実際に過ごしながら相性を確かめてもらうための入口として設計した。
私たちLocal Quest Labはこの事業で、現地滞在型のツアー運営と、二拠点居住サイト・町公式ページを活用した情報発信・相談対応を一体で進め、認知から来訪、相談、継続的な関与へとつながる導線づくりに取り組んだ。
この設計の特徴は、ツアーそのものをゴールにしなかったことにある。本年度の全体方針は、「情報発信→応募・相談→面談・選定→現地体験→参加者の声の可視化→継続接点化」という循環にある。
居住体験に参加した人たちの実感を記事や動画にして残し、次の検討者の判断材料にしていく。つまり、1回限りの体験ではなく、地域との関わりしろを少しずつ広げていくための仕組みとして事業が組んでいった。

実際の居住体験ツアーは、2025年11月1日から2026年2月28日までの期間に実施され、14組応募をいただき、最終的に6組の参加が決定した。参加人数は大人10名・子ども3名。単身者、夫婦、子育て世帯など構成も幅広く、年齢層も20代後半から60代まで多様だった。応募者の多くは首都圏在住で、検討状況も「将来的にしてみたい」という層から、「すでに本格的に検討している」層まで広がっていた。
応募動機にも、いくつかのはっきりした傾向が見られた。
①テレワークを前提に都市部以外にもう一つの拠点を持つ現実性を確かめたいという人たち
②自然豊かな環境のなかで子どもがのびのび過ごせる暮らしを試してみたい家族
③海や静けさに惹かれ、心身を整えるような暮らし方を求める人たち
④将来的な移住候補地を慎重に探っている人たち
つまり、大洗に集まったのは「移住希望者」だけではなく、働き方、家族の時間、生活環境、自分の回復のあり方までを見つめ直したい人たちだったと言える。
だからこそ、居住体験は画一的な観光プランにはしないことを心がけた。滞在先となる町内の一軒家で過ごしながら、スーパーや病院、学校・保育関連施設、駅や周辺交通を確認する。海辺や公園を歩き、朝夕の景色を体感する。海鮮や地元農産物、商店街や市場を利用してみる。必要に応じて移住者や地域の人との対話機会を設け、テレワークのしやすさや都心との距離感も確かめる。「自分の暮らしに引き寄せて想像できること」を重視した。

今回、特に印象的だったのは、参加者の視点が滞在前後で明確に変化していたことである。滞在前の大洗に対する印象は「海鮮のまち」「水族館や花火大会など観光の印象が強いまち」が中心だった一方、滞在後には「実際に暮らせるまち」「日常の利便性もあるまち」「思ったよりコンパクトで生活しやすいまち」へと認識が更新された。大洗は多くの人に観光地として知られているが、今回の居住体験は、その先にある生活の輪郭を可視化するものだったと言える。
たとえば、それぞれの参加者インタビュー記事から見えるのは、山浦さん家族は、子育てや生活利便性を確かめながら、茨城圏での現実的な二拠点居住を考えるきっかけとなり、「海鮮のまちという印象から、暮らせるまちへ」と認識の変化がある。李さんご夫婦は、花火をきっかけに大洗を訪れた経験から、次第に海のある暮らしそのものを思い描くようになったプロセスがある。山口さんは、学生時代に見た海の記憶を手がかりに、単身でのリモートワークと豊かな暮らしの両立を確かめに来た。吉岡さん家族は、子育て環境やテレワークのしやすさを見ながら、「家族のもう一つの暮らし」を具体的に想像しに来た。
これらの声に共通しているのは、「大洗が好きかどうか」を確かめたのではなく、「ここで暮らす自分たちを想像できるかどうか」を確かめたということ。観光地の魅力は、非日常の強さで記憶に残る。
一方で、暮らしの場所として地域を考えるときに必要なのは、日々の買い物動線や仕事との両立可能性、子どもの遊び場、医療や教育、地域との距離感といった、もっと静かで具体的な情報である。参加者たちは今回、その両方を確かめることで、大洗を憧れではなく、選択肢として捉え直していったと考える。

参加者の大洗に対する評価として挙がっていたのは、海や自然環境、景色の良さ、静けさ、人との距離感、生活利便性、食の魅力である。特に目立ったのは、「思っていたより便利」「スーパーや生活施設があり暮らしを想像しやすい」「海鮮だけでなく食の幅がある」「人混みから離れて気持ちに余白ができる」といった声だった。また、都心から遠すぎず、現実的な移動圏にあることも、大洗が二拠点居住先として魅力を持つ理由の一つである。
この「遠すぎなさ」は、大洗の大きな特徴であり、自然が豊かで、海や空の広がりがある一方で、日常生活の利便性も一定程度確保されている。完全に都市を離れるのではなく、都市と地域のあいだを往復しながら、自分に合う暮らし方を試せる。
その中間性こそが、大洗の二拠点居住のリアリティを支えている。だからこそ参加者は、単なるリフレッシュの場としてだけでなく、「家族で暮らすなら・・」「仕事をしながら通うなら・・」「将来の拠点候補として考えるなら・・」という現実的な文脈で、この町を見始めたのだと思う。

今年度は、参加者インタビュー記事を4本、動画を5本を制作した。これにより、居住体験は参加者本人の体験にとどまらず、これから検討する人に向けた具体的な情報へと変換される。事業を単年度で終わらない、情報資産の蓄積につながったと考える。
実際に昨年度、代表理事の萬里小路が大洗町の地域おこし協力隊として整備・制作した二拠点居住サイトの閲覧者数は、昨年度から約10倍に伸長した。その多くが、昨年度の居住体験ツアー参加者インタビュー記事の閲覧だったこともあり、検討者が求めているのは制度の説明や観光情報だけではなく、「その土地で過ごした人が、何を見て、どう感じ、どう考えたのか」という生の実感であることが見えてくる。
観光目線ではなく、暮らし目線・居住者目線で再構成する情報は、今後の移住・二拠点居住施策の土台としても重要と考える。

もちろん、二拠点居住の入口ができたからこそ見えてきた今後の課題もある。たとえば、子育て世帯向けプログラム、滞在・仕事環境に関する情報整備、地域とのつながりを深める仕組み、就業支援や住まい支援との接続などが挙げられる。
また、今回の参加者の関心も、「家族での子育て環境確認」「単身でのテレワーク滞在」「将来的な移住候補地探索」「シニア期の新しい暮らし方」などに分かれており、今後は対象別・テーマ別の設計がより重要になることも見えてきた。
今後に向けては、情報発信・相談・体験という入口機能を基盤としながら、交流、コーディネート、受け入れ環境整備、定着支援へと段階的に広げていく方向性も考えていきたい。特に大洗は、首都圏からのアクセス、自然環境、生活利便性、子どもがのびのび過ごせる空間という特性から、子育て世帯との親和性が高く、今後は「家族で試せる二拠点居住」といった明確なテーマ設定や、教育・保育資源と連動した滞在プログラムも良いと考える。
さらに、中長期的には交流プログラムやファンクラブ、コーディネーター配置、移住体験住宅、就業・兼業副業支援、空き家バンクや住宅支援との接続までを含めた拡張も視野に入れていきたい。

今回の大洗二拠点居住体験ツアーを通じて見えてきたのは、地域の魅力は有名な観光資源だけでは決まらないということである。むしろ、買い物がしやすいこと、仕事と両立できそうなこと、家族が安心して過ごせそうなこと、人混みから少し距離を置けること。
そうした生活の手ざわりが揃ったときに、地域は初めて「訪れたい場所」から「暮らしを考えられる場所」へと変わっていくのではないか。大洗は、その変化が起こり得る町だと思う。そして、6組の参加者は、その変化のプロセスをそれぞれの言葉と実感で示してくれた。
Local Quest Labはこれからも、地域をただ紹介するのではなく、地域との接点をどう生み、その接点をどう次の循環へつないでいくかを大切にしながら、実践を重ねていく。今回の大洗での取り組みは、その一つのかたちだったと言える。
大洗を知ることは、海のある町を知ることだけではない。自分たちの暮らし方を、もう一度問い直してみることでもある。そんな入口として、この居住体験が機能し始めていることを、私たちは6組の参加を通じて確かに感じたのだ。
大洗二拠点居住サイト「DooR to Oarai」
https://oaraiduallife.studio.site/

二拠点居住体験ツアー募集
https://oaraiduallife.studio.site/news/duallife-2025fwtour

参加者インタビュー①山浦さん家族
https://oaraiduallife.studio.site/news/2026duallifetour-interview01

参加者インタビュー②李さん夫婦
https://oaraiduallife.studio.site/news/2026duallifetour-interview02

参加者インタビュー③山口さん夫婦
https://oaraiduallife.studio.site/news/2026duallifetour-interview03

参加者インタビュー④吉岡さん家族
https://oaraiduallife.studio.site/news/2026duallifetour-interview04

参加者インタビューダイジェスト動画
https://www.youtube.com/watch?v=oJWH43JCCqU
執筆:萬里小路 忠昭