
2025年夏、山梨県富士河口湖町の森に子どもたちの歓声が響いた。
認定NPO法人Mt.Fuji Wood Culture Society(以下、まなびの杜)主催、一般社団法人都留まなびの未来づくり推進機構(以下、探究まなび場つるラボ)協力の「自力建築プロジェクト」は、富士河口湖町にあるまなびの杜で8月9日から15日までの1週間、子どもたちがキャンプをしながら、森から自力で木を伐り、製材し、東屋(あずまや)を建てる試みだ。
釘や金物を使わず、木の楔で組む伝統技法で建築し、最後は森に苗木を植えるまでが一連の流れとなっている。夏休み期間中の小学生12名が参加し、最終日となる8月15日には高さ約3.5mの東屋が完成。餅つきや上棟式を行った後、子どもたちは看板を掲げ、森にナラやフジザクラの苗木を植えた。
Local Quest Labの代表理事・萬里小路は初日8/9に現地を訪れた。本レポートは「自力建築プロジェクト」を題材に、学校教育でも家庭教育でもない第3の教育である「社会教育」を「こども」の視点から、Local Quest Labが掲げる「地域との接点と循環」の視点から、社会教育の持つ可能性を考えていく。

文部科学省によると、社会教育とは「学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動」と位置付けている。学習の拠点となる代表的な社会教育施設としては、公民館、図書館、博物館、青少年教育施設などがある。
つまり、社会のさまざまな場面で行われる学び全般が社会教育であり、学校教育における教室の中で教科書を活用した学びの場から離れ、自然や生活の中での体験や人との関わりの中で、学習者自らが学ぶことが重視される。こうした場は、学校や家庭では補えない実践的な知識や地域資源に触れ、他者と協働する力を育むことにつながる。
Local Quest Labは「経済資本・文化資本・社会関係資本の3つの資本が豊かな個人と社会の実現」を目指し、地域との接点と循環をつくる事業・研究を行っており、社会教育はこの“接点と循環”を実践するものだと捉えている。

プロジェクト初日、主催であるまなびの杜の家具作家・吉野崇裕理事長は「本日から1週間、キャンプをしながら小屋を建てます。まずは森で木を倒し、家が森から生まれていることを体で知ってほしい」と子どもたちに語りかけた。
吉野理事長は、日本の森に危機感を抱き、広葉樹の大径木(樹齢を経て太く育った広葉樹の木材のこと)が減っている現状や、昔の日本人が森とともに暮らし、何百年もの間、家を建て、私たちの生活を支えてきた文化を伝えたいという思いからNPO法人を立ち上げた。
参加者は、30年前に植えた木を伐り、森の中の製材機で板材に挽き、事前にスタッフが墨付けした部材を自らノミで仕上げて組み立て、最後に苗木を植えるまでを体験する。伐倒の際に使うのはチェーンソーではなく手鋸で、15メートル以上あるヒノキ1本の重さが500〜600キログラムにもなることや間伐で光を入れることが森を健全に保つためには大切なことなどを学んだ。
また、杉板の表面を焼き炭化させ、耐久性を高める「焼杉」による外壁仕上げは、防腐剤なしで数十年もつ伝統技法であることや、安全対策として足場やネット、ハーネスを用意していること、柱1本でも相当な重量があり、子どもは必ず2人1組で運ぶことなど、日本の伝統から現場のリアルまで、丁寧に共有された。

プロジェクトに参加した家庭の動機はさまざまだった。ある保護者は「職場からこのプロジェクトの案内が届き、親子で『面白そうだね』と話していたところ、4年生の娘が自分から『参加したい』と言い出した」と話した。
また、別の保護者は「家の庭に小屋を建てるのが息子の夢だったが、家庭では実現が難しい。このプログラムなら挑戦できると思い参加を決めた」と話した。さらに、「祖父母にも完成した東屋を見せたい」という3世代で思い出を共有したいという声も聞かれた。
一方、子どもたちは自分の意思で挑戦する姿勢を示していた。ものづくりが好きでも、友達との交流はあまり得意ではないという子も、森の中で仲間と力を合わせる経験に心を躍らせていた。1週間のキャンプに不安を感じていた保護者も、子どもが主体的に「行く」と決めたことが後押しになったという。完成後に苗木を植える体験は、森への恩返しという意識にもつながる。

本プロジェクトに協力する「探究まなび場つるラボ」の浅利理事は、「探究学習は学校教育で学んだ知識を、実際の生活や社会の中でどう生かすかを体験することが重要。例えば、今回のプロジェクトであれば、木の長さや重さなどは算数、建築の構造や材料などは理科の応用をしている」と語る。
正解が一つではない課題に向き合い、失敗から学ぶ「学び方を学ぶ」プロセスこそが探究学習の醍醐味だという。今回のプロジェクトは親からあえて離れてもらい、子どもが自分の力で考え、行動することを促進する。

社会教育は学校や家庭教育を補完し、地域ぐるみで子どもを育てる役割を担う。共働き家庭が増える現代において、地域が子どもの居場所を支える役割は大きくなっている。また、フリースクールのような学校以外の場所での学びも出席扱いとなるような制度整備も進んでいる。
今回は森をフィールドにした学びであったが、浅利理事は「海や水資源などと触れ合う体験学習も今後企画したい」とも語る。浅利理事の言葉は、社会教育が多様な学びの場を提供し、個々の子どもが自分らしく成長する基盤となることを示している。

今回の取材を通して、Local Quest Labが掲げる「個人と社会の接点と循環をつくる」というミッションは、この自力建築プロジェクトにそのまま重なった。子どもたちが親元を離れ、富士河口湖の森に滞在し、地元の大工や木工職人と協働しながら東屋を建てる。伐った木の命を受け継ぎ、完成した建物に「友楽東屋」という名前をつけることで、大人になっても訪れたい場所として心に刻む。そして、森に苗木を植え、次の世代につないでいく。
この一連のプロセスは、Local Quest Labが定義している「訪れる→関わる→共創する→更新する」という循環のプロセスそのものである。今回のプロジェクトで例えると、「訪れる」は都市部などに在住する子どもたちが普段とは異なる環境である富士河口湖の森に足を運ぶこと、「関わる」はその森の中で地域の人々と交流・体験しながら学ぶこと、「共創する」は1週間かけて東屋を仲間と協働で建て上げること、「更新する」はこれら一連の体験を通しての発見や気づきから自身の価値観をアップデートすること、という感じであろう。

このような循環のプロセスは、単なる思い出づくりにとどまらず、子どもたちが地域と濃い「関係人口」として継続的に関わるきっかけとなるだろう。地域に根ざしたNPOの活動と、越境しての教育志向の家族が交わることで、新たな価値観やネットワークが生まれていく。
まなびの杜の理念には「森の持続性」を重んじ、前の世代から受け継いだ木を使い、次の世代のために木を植える一連の作業を通じて、持続的な木の文化を伝えることが掲げられている。吉野理事長はNHKの取材に「森から家ができることを実感してほしい」と話し、木を伐る前には感謝の祈りを捧げ、森とともに暮らすリズムを考え直すきっかけになればと願っている。木を伐ることは森を破壊する行為ではなく、適切な間伐と植樹を伴う循環が森林を健全に保つことを子どもたちは体験を通じて学んだ。

「社会教育×こども」について考えるにあたって、今回の富士河口湖町で開催された自力建築プロジェクトは象徴的な事例といえる。学校でも家庭でもない場で、子どもたちは仲間と協力し、失敗を恐れず、五感を使って学び、地域の自然と人の関わりの中で自分の役割を見つけていく。保護者や地域の大人は、その背中をそっと支え、成果物として残る東屋は地域と参加者を深く結ぶ象徴となる。
Local Quest Labは今後も、地域への訪問や関わりを通じた協働・共創や価値観のアップデートを促進する活動を探究していく。富士河口湖の森で生まれた小さな東屋から広がる学びは、社会教育の未来を照らす灯になるだろう。

*自力建築プロジェクトの詳細(レポート・活動報告)は探究まなび場つるラボのホームページおよびInstagramよりご覧ください。
ホームページ:https://tsurulabo.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/tsurulabo.jp
主催に関する情報
【認定NPO法人Mt.Fuji Wood Culture Society】

2020年3月に Mt.Fuji Wood Culture Society まなびの杜 は山梨県富士河口湖町でスタートした特定非営利活動法人です。(2023年9月より認定特定非営利活動法人になりました。)木の文化を継承することを軸として、
・椅子等のコレクションの公開事業
・木工の技術指導・体験などの事業
を行い、市民の文化的生活向上、自然環境保全、子どもの健全な育成に寄与することを目的としています。
*関連リンク
ホームページ:https://www.mtfuji-wcs.org/home
Instagram:https://www.instagram.com/mtfujiwcs/
取材・執筆:萬里小路 忠昭