【取材レポート】下関市「複業マッチングプログラム」フィールドワーク――地域企業の未来をつなぐ試み

本州と九州を結ぶ関門海峡という地理的条件のもと、独自の文化と産業が発展してきた山口県下関市。

市内の面積は約716㎢、人口は約24万人と、山口県内では比較的大きな都市でありながら、近年は人口減少と高齢化が進み、多くの中小企業が慢性的な人手不足や事業承継の課題に直面している。

こうした状況に対し、下関市は「令和7年度 成長志向企業の経営力向上支援業務」を通じて、地域企業の経営基盤強化と人材確保に取り組んでいる。その柱のひとつが、市内企業に都市部などの副業人材をマッチングし、経営課題の解決に伴走する「複業マッチングプログラム」だ。

本プログラムでは、福祉、食品加工、建設、水産物小売、設備工事、観光施設運営といった多様な業種の市内企業6社が参加。2025年11月15日〜16日には、副業人材10名が下関を訪れ、現地フィールドワークとして各社を巡り、経営者・担当者との対話や現場見学を行った。

今回、現地を取材させていただいた。2日間の様子を振り返りながら、各企業の魅力と課題、副業人材とのやりとりから見えてきた「これからの地域企業と複業人材の関わり方」を描いていく。

フィールドワークの概要

プログラム構成

フィールドワーク初日は、下関駅南口交通広場に集合し、NPO法人シンフォニーネットを皮切りに3社を訪問。途中、赤間神宮など市内の名所も巡りつつ、夜は懇親会で企業側・副業人材双方の交流を深めた。

2日目は早朝の唐戸市場からスタートし、水産物小売、設備工事会社、ウォーターフロント施設を訪問。ランチと振り返り会を経て、下関駅で解散する1泊2日のプログラム構成となっていた。

事前に、事務局から配布された企業紹介資料や各社のウェブサイトを副業人材が読み込み、各企業のビジョンや抱える課題を把握したうえで現地に臨んだ。

当日は、各社からの事業説明・現場見学の後、課題や今後の方向性について質疑応答・ディスカッションを行うスタイルで進行。企業の取り組みや課題を「批判的に見る」のではなく、「自分ならどう関われるか」を起点に対話するスタンスが一貫していたのが印象的だ。

副業人材のバックグラウンド

今回参加した副業人材10名は、首都圏や関西圏など都市部を拠点に活動する社会人たちだ。メーカーで25年以上の営業経験を持つビジネスパーソン、総務・人事の制度設計に強い人事コンサルタント、Web・広告業界歴30年以上のマーケティングプランナー、デザイン会社経営者、DX支援コンサルタント、キャリアコンサルタントなど、職種も年齢も実に多様である。

「地域企業の成長に貢献したい」「都市と地方をつなぐ橋渡し役を担いたい」「自分のスキルを活かして新しい働き方を模索したい」。そんな思いをそれぞれ抱えながら、自身の専門性をどのように活かせるかという視点で、企業との対話に臨んでいた。

1日目の訪問先

NPO法人シンフォニーネット – 共生社会を目指す福祉事業者

最初に訪れたのは、障害者就労支援事業所を運営する「NPO法人シンフォニーネット」。市内中心部の商店街に位置するカフェ兼交流拠点では、利用者が作るケーキや雑貨を販売しながら、地域の人がふらりと立ち寄れる場づくりをしている。

岸田理事長からは、親の会・当事者の会としての立ち上げから、NPO法人化に至るまでの歩み、就労継続支援B型事業所としての役割、アロマハンドトリートメントサロンや子ども食堂など、多角的な取り組みについて説明があった。「B型事業所ではあるが、最終的には利用者が一般就労へと巣立っていく『発展的解散』を理想としている」と語る姿が印象的だった。

一方で、課題として挙げられたのは、NPOとしての会計・労務・助成金申請など、煩雑なバックオフィス業務である。現在はベテランスタッフ1名がほぼ一手に担っており、事業継続の観点からも引き継ぎ体制の構築が急務だという。

これらに対し、副業人材からは、
・地元のパートタイム人材とリモートで関わる専門人材を組み合わせたバックオフィス体制
・NPO向け会計ソフトやクラウドツールを活用した業務効率化
・Canva等のオンラインツールを使った広報物づくりの支援
・ブランドストーリーを整理し、サイトやSNSで伝えるための編集・デザイン支援
などの具体的なアイデアが次々と挙がった。福祉の現場と外部人材が、補完し合いながら持続可能な運営体制をつくっていく可能性を感じられるセッションとなった。

株式会社ダイフク – ふぐの老舗にDXとブランディングの風を

次に訪問した「株式会社ダイフク」は、下関名物・ふぐの加工・販売で知られるマルヨシグループの一員だ。南風泊市場に隣接する加工場では、熟練バイヤーが選んだとらふぐを仕入れ、鮮度と食感を保ったまま全国へ出荷している。

現在の売上の大部分は、百貨店のギフトカタログや土産物店・旅館などへのBtoB取引が中心。一方で、自社ECや楽天市場などを通じたBtoC販売は全体の数パーセントに留まり、「大手バイヤーに価格決定権を握られてしまう」という構造的な課題も吉塚社長から共有された。

また、ふぐの刺身は見た目も味も他社との差別化が難しく、同業他社も多い。そうした中で、ダイフクが新たな挑戦として取り組んでいるのが、ふぐの骨から出汁を抽出したスープ商品「ふぐらぁ」だ。これまで廃棄していた骨を価値ある商品へと転換し、ラーメンや鍋のベースとして提供することで、新たなマーケットを開こうとしている。

副業人材からは、
・ポップアップストアでの試食体験とその場でのEC登録・定期便への誘導
・「ふぐのまち下関」と連動したストーリー設計とブランド開発
・ふるさと納税ポータルやサブスク型ECの活用によるBtoC拡大
・若手営業の育成を兼ねた営業プロセス設計とトレーニング
など、営業・マーケティング・商品企画が連動したアイデアが出された。伝統産業としての「ふぐ屋」に、DXとブランドづくりの視点を持ち込むことで、新たな可能性が広がりつつある。

株式会社ミカド交設 – 地域インフラを支える“縁の下の力持ち”

1日目最後の訪問先は、道路の法面(のり面)補強やガードレールなどの交通安全施設、橋梁の補修といった公共インフラの保守を手掛ける「株式会社ミカド交設」だ。「インフラを適切に維持する」「建設業界に人材を送り込む」「働きやすい会社をつくる」の3つを掲げ、若手が主体的に活躍できる組織づくりを進めている。

採用では「お試し就職」と呼ばれる制度を導入し、一定期間一緒に働いたうえで社員側が最終的な採用可否を判断するなど、現場発の人材選考が行われている点もユニークだ。

同社の大きなテーマは「事業承継」と「職域拡大」である。吉野社長は実務から徐々に距離を置きつつあり、今後どのような体制で会社を次世代につないでいくかが最大の関心事だ。また、若手社員が増えている一方で、公共工事の入札に必要な工種やスキルセットをどう広げていくかも課題となっている。

面白いのは、生成AIによる施工計画書の自動作成や、ドローン・3Dスキャナを使った現場調査など、建設DXにも既に挑戦していることだ。ただ、その活用方法や外部への発信はまだ手探りであり、「自社の強みを言語化し、採用・ブランディング・事業承継につなげていきたい」という相談が出された。

副業人材からは、
・事業承継に向けた会社分社化のシナリオづくりと、第三者承継も視野に入れた選択肢整理
・DXの取り組みを「若手が活躍できる現場」として打ち出す採用ブランディング
・組織文化や評価制度の棚卸しを通じた「働きがいの見える化」
など、経営戦略と人事・ブランディングが一体となったアイデアが出てきた。インフラを支える“縁の下の力持ち”が、次の世代へとバトンを渡すための対話の第一歩となった。

○2日目の訪問先

株式会社林商店 – 市場の老舗が挑む「次のファンづくり」

2日目最初に訪れたのは、唐戸市場で明太子や鮭、干物などを扱う老舗水産物店「林商店」。戦後間もない頃に北海道産昆布の乾物店として創業し、現在は市場内店舗での小売に加え、量販店やスーパーへの卸売、通販事業も展開している。

店舗では、ショーケースに色とりどりの海産物が並び、来訪者は試食を楽しみながら商品を選ぶことができる。一方で、今後6年間続く市場改修工事に伴い、仮設店舗で営業を続けなければならないなど、環境変化への対応が大きなテーマになっている。

林社長からは、「売上の多くを占める卸売に対し、小売・通販での収益基盤をどう強化していくか」「通販では長年続けてきた紙カタログの反応が依然として良い一方、若年層への認知が不足していること」「アプリ会員約4千人のデータや、紙カタログの顧客情報を十分に活かし切れていないこと」といった課題が率直に共有された。

副業人材からは、
・「60〜70代の既存顧客を大事にしつつ、50代を入り口に段階的に若返らせる」というターゲット戦略
・紙カタログとアプリ会員データを連携・分析したうえで、セグメントごとのCRM設計を行うこと
・SNSや動画で「作り手」や「市場の朝の風景」を伝えるコンテンツ制作
・仮設店舗期間をチャンスと捉えたキャンペーンやふるさと納税との連動施策
など、具体的な打ち手が多数出てきた。林商店には、社員が自ら新しい企画に挑戦する文化もあり、「社内にある程度のデジタル・マーケティングの素地を育てつつ、必要な部分は外部人材が伴走するハイブリッド型」が有効ではないかという議論もなされた。

株式会社ヒロナカ – 若い設備工事会社が描く「人材育成」と「DX」のこれから

続いて訪れた「株式会社ヒロナカ」は、創業36年の電気・空調設備工事会社だ。社員数は12名ほどで、20〜30代の若手を中心とした組織構成。民間企業向けの設備工事が売上の大半を占める一方、今後は公共工事の比率も高めていきたいと考えている。

同社が掲げるテーマは、大きく「DXによる業務効率化」と「評価制度・人材育成のブラッシュアップ」である。日報や勤怠管理にはサイボウズを活用し、見積もり・原価管理は社内NAS上のファイルで共有しているが、情報が分散しているため、より統合的な管理方法を模索している状況だ。

また、資格取得を重視した評価制度はあるものの、運用面での悩みや、若手社員に「数字感覚」をどう身につけてもらうかといった課題が挙がった。

副業人材からは、
・建設業向けクラウドサービスを活用した、書類作成・現場管理のDX支援
・現場経験と座学を組み合わせた「原価・利益の見える化」教育プログラム
・既存の評価制度をベースに、ヒロナカらしいキャリアパスと評価指標を再設計すること
などのアイデアが出た。「若い会社だからこそ、今のうちに仕組みを整えれば、10年後の採用力・定着率に効いてくる」という指摘に、廣中社長も強く頷いていたのが印象的だった。

下関フィッシャーマンズワーフ(カモンワーフ)– ウォーターフロントの“面”をどうデザインするか

最後に訪れたのは、関門海峡沿いに位置する商業施設「カモンワーフ」を運営する下関フィッシャーマンズワーフ株式会社だ。唐戸市場や海響館(下関市立水族館)、ゆめタワーなど周辺施設と連携しながら、「エリア全体での賑わいづくり」に取り組んでいる。

販促担当の原田さんからは、「夏季に10年以上続けている毎週土曜の花火大会」「海響館の休館期間中に実施した海響館&お得なかもセットなどのタイアップ企画」「北九州からの来訪者データを基にした広告出稿とランディングページ分析」といった施策事例が紹介された。

一方で、来訪者の約半数が日帰り客である現状や、多くのテナントが昼営業だけで十分な売上を確保できる構造から、「夜のにぎわい」や「宿泊客向けコンテンツ」をどうつくるかが大きな課題であることも共有された。

運営側はテナントを公平に扱う必要があるため、特定の店舗だけを強くPRすることが難しい。そのなかで、各店が個別にSNS発信を行っているものの、小規模店では更新の手が回らない現実もある。

副業人材からは、
・ファミリー向け、カップル向け、女子旅向けなど、ターゲット別に体験や店舗を束ねた「過ごし方ガイド」の発信
・プロ人材がSNS運用やコンテンツ設計に伴走し、テナントを巻き込みながら継続的な発信体制をつくること
・宿泊施設や公共交通と連携した「1泊2日モデルコース」や夜間コンテンツの開発
などの提案が寄せられた。原田さんは「若い世代の感性を取り入れながら、エリア全体としての“目的地”をどうつくるか」がこれからのテーマだと語っていた。

フィールドワークから見えたこと

多様な専門性が地域課題を鮮やかに切り取る

2日間のフィールドワークを通じて印象的だったのは、副業人材がそれぞれの専門性を生かしながら、企業の魅力と課題を整理し、具体的な打ち手まで踏み込んでいたことだ。

福祉NPO法人には、会計・労務・助成金申請といったバックオフィス支援の構想が出され、ふぐ加工会社には、骨から出汁をとる新商品を軸としたブランド戦略やBtoC展開のアイデアが示された。また、建設会社には、事業承継とDXを両輪とする中期シナリオの検討が、老舗水産物店には、紙カタログとアプリ会員データを統合したCRM戦略が提案された。さらに、設備工事会社には、評価制度の再設計や若手育成の枠組みが、ウォーターフロント施設には、ターゲット別の情報発信と周辺エリアを巻き込んだ滞在促進のアイデアが共有された。

こうした多角的な視点が交差することで、企業自身も「自分たちの強みや可能性」に改めて気づいていくプロセスが生まれていたように感じられる。

現場を訪れることの意味と価値

事前資料やウェブサイトだけでも、企業の概要や数字はある程度掴むことができる。しかし、実際に現場を訪れ、経営者や社員の表情、働く空気感、商品が生み出されるプロセスに触れることで、理解の解像度は一気に上がる。

ふぐの加工場で白衣とヘアキャップを着て工程を見学したこと。唐戸市場の朝の熱気のなかで、林商店のスタッフが来店客に声をかけ、試食を勧める様子を目にしたこと。カモンワーフの海沿いテラスで、関門海峡を行き交う船を眺めながら、「ここでどんな夜の過ごし方をデザインできるだろう」と想像したこと。

こうした体験を通じて、「下関の企業の未来像や課題に、身体感覚を伴って触れることができた」という副業人材も多かったはずだ。フィールドワークは、副業人材にとっても、自身のスキルやキャリアを地域とどう結びつけていくかを考えるきっかけになる。

参加者の声

1泊2日のフィールドワークを終え、参加者からは次のような声が寄せられた。

企業の現場を訪れ、経営者の生の声に触れること。同じバスに乗り合わせた副業人材同士で議論し、それぞれの視点や経験の違いに刺激を受けること。こうした積み重ねが、参加者一人ひとりの「働き方」「キャリア」「地域との関わり方」を見つめ直す時間にもなっていた。

今後の展望 – フィールドワークから協働プロジェクトへ

フィールドワーク後は、副業人材が「関わりたい」と感じた企業に対し、個別に提案書を作成・提出するフェーズへと進む。両者の合意が得られれば、一定期間の業務委託契約などを通じて具体的な協働プロジェクトがスタートする予定だ。

下関市にとって本プログラムは単発のイベントではなく、「下関の人事部」としての機能を育てていく長期的な取り組みでもある。複業マッチングだけでなく、働き方改革やリスキリング促進プロジェクト、デジタル人材育成、人材戦略策定のノウハウ向上など、複数の施策を組み合わせながら、地域全体の“人材エコシステム”をつくろうとしている。

今回のフィールドワークで生まれた関係性やアイデアが、どのようなプロジェクトとして形になっていくのか。数年後に振り返ったとき、「ここがスタートだった」と語れるような取り組みが生まれることを期待したい。

おわりに

下関市の複業マッチングプログラムは、地域企業が抱えるリアルな課題に向き合いながら、副業人材が自らの専門性を活かして新しい働き方と地域との関わり方を模索する試みである。人口減少や人手不足といった構造的な課題は、短期的に解決できるものではない。

しかし、今回のように、企業の現場で共に悩み、考え、試行錯誤してくれる外部パートナーが増えていくことは、地域にとって大きな力になるはずだ。フィールドワークを通じて生まれた小さな出会いと対話が、この先どのような協働の物語へとつながっていくのか。

提案書作成からマッチングへと続くプロセスの中で、どのような変化が生まれるのかを、これからも追いかけていきたい。


取材・執筆:萬里小路 忠昭

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