
Local Quest Lab・代表理事の萬里小路が2025年10月4日に開催されたイベント「主体的な関係人口を拡げるために私たちができることは何か?」に登壇し、茨城県大洗町での関係人口の取り組みを紹介しました。
「関係人口がどのようにして地域との関わりを深め、プロジェクトを立ち上げていったか」という点を中心に、イベント参加者に向けてお話しました。本記事は当日したお話した内容のレポート記事になります。
イベントURL:https://kankeijinko2025.peatix.com/

『私が活動しているのは茨城県大洗町というところで、関東圏にお住まいの方はなんとなく名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。茨城県のちょうど真ん中あたり、太平洋に面した港町です。
人口はおよそ1万5,000人、面積は23平方キロメートルほどの小さなまちで、自転車で2〜3時間もあれば町中をぐるっと回れてしまうようなサイズ感です。関東圏では観光地としても有名で、海を中心としたレジャー、水族館、海鮮グルメなど、多くの観光客が訪れる場所でもあります。
景色の特徴でいうと、太平洋側なので海から昇る朝日を見ることができ、日中は広い海がバーンと広がっていて、海の反対の西側には湖もあるので、夕日もきれいに見える。さらに、冬期は星空もとても美しくて、「自然とともに生きている町だな」と日々感じています。』

『そんな大洗町と私の出会いですが、きっかけは町で2022年1月に開催されたまちづくりプログラムへの参加でした。そのプログラムの中で、私を含め3人のメンバーが1つのチームになり、「大洗クエスト」というチームを結成しました。
「クエスト」という名前は、プログラムの中で町を実際に歩いて回るフィールドワークの機会があり、そのときに「大洗はコンパクトで、いろんな要素がぎゅっと詰まっていて、街全体が1つの冒険のフィールドみたいだな」と感じたところから来ています。
私自身は、プログラムに参加する少し前年から、地方創生の領域で、官公庁事業の企画やコーディネート、取材・執筆など)に関わるようになったのですが、「外から支援する立場」ではなく、「地域の中の人間として関わりたい」と思い始めていたタイミングでした。そんなときにこのプログラムを見つけて、「一歩踏み出してみよう」と参加したのが始まりでした。』

『プログラムは3か月間で、全部で3チーム結成したのですが、他の2チームはプログラム終了とともに実質解散になりました。一方で、大洗クエストのメンバーは、「これからも大洗と関わり続けたいよね」という空気が自然と生まれて、「このチームはこのまま終わらせたくない」と話していました。
そんなとき、町役場の職員の方から声をかけていただきました。「までさんは普段、地方創生の仕事をフリーランスでやっているよね。よかったら、うちの地域おこし協力隊をやってみない?」と。その際に、「今の働き方は変えなくていい。神奈川の住まいも残して、二拠点みたいな形で大丈夫」という条件も提示していただいて、「これは一つのチャレンジになるな」と思い、協力隊として着任することを決めました。』

『そこから、「協力隊としての活動」と「大洗クエストとしての活動」をどう掛け合わせて、関係人口の取り組みにつなげていくか、ということを考え始めました。
まず前提に置いたのは、国の地方創生の総合戦略で掲げられている、「地方とのつながりを築き、地方への新しい人の流れをつくる」という方向性です。そこから大洗町の「総合計画」に落とし込んでいき、「国の方向性」と「町の計画」を読み込み、「自分たちの役割はどこに置けるか?」を整理しました。
その上で、協力隊としての私個人は、主に「企画」と「コーディネート」を担い、実際の実行や運営は大洗クエストのメンバーとともに行う、という体制をつくりました。運営資金については、協力隊には年間数百万円ほどの活動費がついているので、それをうまく活用しながら、関係人口づくりのプロジェクトを進めていくことにしました。』

『大洗町で活動を続ける中で、整理するようになったのが、「関係人口に率先して取り組む主体のパターン」です。横軸に「主体の形」、縦軸に「関わる人数の多さ」をとって、ざっくり4つの型に整理しました。
左側:自治体や団体が会員制・組織として関係人口を抱える「集合型」
右側:個人の自主性や、ゆるい関係性に寄せた「個人・ゆるやか型」
上側:関わる人数が多い
下側:関わる人数が少ない・深い
本日のイベントに登壇する他地域の場合、飛騨市の「ヒダスケ!」は自治体主導でプラットフォームをつくり、ふるさと納税とも連動させながら、多くの人に関わってもらう「プラットフォーム型」にあたるかなと思います。一方で、隠岐の島町のGOSEプロジェクトや高山村のtakayamahubのような取り組みは、もう少し人数は絞りつつ、コミュニティとしての継続性を重視した「コミュニティ型」に近い印象があります。
それに対して、大洗クエストはどちらかというと「プロジェクト型」です。オンラインコミュニティや会員組織を大きくするというよりは、現地・リアルな場でプロジェクトを立て、そのプロジェクトに関わりたい人が自分の意思で飛び込んでくる。そういう「プロジェクトに参加すること自体が関わり方になっている」というスタイルでやってきました。』

『2022年5月から2025年4月までの3年間の活動の中で、いろんなプロジェクトに取り組んできました。ざっくり分けると、次のような流れがあります。
まずは、町の魅力を発掘する街歩きや取材系のプロジェクト
そこから、地域の事業者さんと一緒に商品開発を行うような、中長期のプロジェクト
さらに、町外の大学や県・広域地域の事業と連携した「外への展開」へ
3つ目は、具体的には大学と連携して講義を行い、その後に学生たちに大洗でフィールドワークする企画を組んだり、県・広域地域の施策に乗っかる形で「ふるさとワーキングホリデー」などに町として参加したりと、町外での接点づくりも行ってきました。』


『私が大洗クエストとして活動する中で、意識してきたことは、「ライトな関わりしろ」から、「ハードな関わりしろ」へと段階的に広げていくという考え方です。
町内で言えば、最初はライトな関わりとしての「まち歩き」や「体験プログラム」からスタートし、そこから一緒に商品開発をする、イベントを共催する、といった年単位のプロジェクトへと進んでいく。
同じように、町外との関わりでも「一度訪れる」「ワーケーションで短期滞在する」といったライトな入り口から、継続的に関わるプロジェクトへと、関わりしろを厚くしていくことを意識してきました。』

『また、定量的な数字でいえば、「何件のプロジェクトをやったか」というよりも、
どれだけの人が関わってくれたか
どれだけの人を実際に街に案内したか
といった「関係の深さ・広がり」のほうを大事にしてきた感覚があります。』

『こうした3年間の実践を通じて、自分たちなりの「関係人口」の定義も少しずつ言語化されてきました。私たちは、関係人口をこんなふうに捉えています。
地域の人・物・こと(=点)との出会いや交流等の体験を通じて、
自身と地域の関係性(=線)を見つけ、自分ごと化と意味づけ化を行い、
創造性と関係性(=面)を拡張する人のこと。
その人たちによる研究と実践の積み重ね(=形)が地域にインパクトをもたらす。
活動当初からこのような定義があったわけではなくて、実際に大洗クエストとして動き続けるなかで、「ああ、自分たち自身もそうですし、自分たちが創出したい関係人口って、こういう人たちのことなんだな」と、少しずつ言葉にできてきた感じです。』

『本日のイベントタイトルにもある「主体的な関係人口を広げるために」というテーマに対して、自分たちが大事だと考えていることが大きく2つあります。
1つ目は、個人と社会の「接点」をつくることです。きっかけとも言える最初の接点がなければ、関係人口の「関係」は生まれません。私自身も、最初に大洗町で街歩きをしたり、人と出会ったりした経験があって、そこでの発見や刺激が「大洗と自分との最初の接点」になりました。
その一歩目がないと、その後の「自分ごと化」や「意味づけ化」が起こりません。そのため、まずは各地で「最初の一歩」を踏み出せる場や機会をどのようにデザインするかがとても重要だと思っています。
2つ目は、その接点を単発で終わらせず、「循環」にしていくことです。一度関わって終わりではなく、関わり続ける中で、
地域の人とつながる
一緒にプロジェクトを共創する
自分の価値観やキャリアがアップデートされる
さらに新しいプロジェクトが生まれる
といった循環をつくっていくこと。
そして、その循環の先に「3つの資本」が豊かになることを意識しています。
経済資本:ビジネスや事業、お金の流れとしての価値 など
文化資本:価値観や知識、経験、キャリアとしての蓄積 など
社会関係資本:人と人、人と地域とのつながり など
人と人のつながりだけでは活動の持続性が弱い部分がある一方で、ビジネスやお金の話だけに振り切ってしまうと「関係人口」とは少し違うものになってしまう。この3つの資本をバランスよく豊かにしていくことで、主体的な関係人口はもっと広がっていくんじゃないかと思っています。』

『最後に、もう一つ私たちが大事にしている視点として、「関係人口のシェアリング」という考え方があります。どういうことかというと、「各自治体が、自分たちの関係人口だけを増やせばそれでいいのか?」という問いです。
もちろん、それぞれの地域ごとに関係人口を増やすことが大前提ではあるのですが、その人たちが「一つの地域の関係人口として閉じる」のではなく、そこでの学びや経験を別の地域にも持ち出していく。
例えば、
Aという地域での関わりで得た学びを、Bという地域のプロジェクトで活かす
そのBの経験が、またCの地域にも波及していく
そんなふうに、関係人口が複数の地域を行き来しながら、学びや実践をシェアしていく社会になっていくといいなと思っています。
単に「地域に関わって終わり」ではなく、もう一歩深いところである
事業づくりに入っていく
組織やコミュニティの内側に関わる
中長期的に伴走する
といったプラスアルファの関わり方が増えていくと、主体性の度合いもどんどん上がっていくのではないかと思っています。

イベント全体のレポートは、GOSEプロジェクトのホームページにて公開していますので、そちらもぜひご覧ください。
https://goseproject.studio.site/20251004kankeijinkou_report
執筆:萬里小路 忠昭