【インタビュー|菅百花さん】プレイングワーカーとして紡ぐ山梨と自分の未来――サッカー選手と会社員、2つのフィールドで地域と未来を結ぶ物語

Local Quest Labの活動拠点である山梨で活動する人・企業・団体等へのインタビューを通じて、地域内外の人たちに「関わる」「暮らす」「働く」「旅する」「学ぶ」のきっかけ(接点)と地域とのつながり(循環)をつくるプロジェクト「Local Quest YAMANASHI」。


今回、山梨県鳴沢村を拠点に活動する「FCふじざくら山梨」のキャプテン・菅百花さんにインタビューをした。

ピッチでは鼓舞する声でチームを牽引する顔、職場では富士観光開発の社員として観光施設を支える顔、そして、地域活動ではサードプレイスづくりや保護犬支援に挑戦する顔。そのような多面性を持ちながら山梨に根を張る彼女の歩みには、「個人と社会の接点と循環をつくる」というLocal Quest Labのミッションを体現するようなストーリーが詰まっていた。

プレイヤーとして複数のクラブを渡り歩いた彼女がなぜ山梨を選び、「プレイングワーカー」という新しい働き方を選んだのか。キャプテンとしてなでしこリーグ昇格を目指す決意と地域で生きる人々へのまっすぐな想いに耳を傾けた。

菅 百花(すが ももか)さんのプロフィール
神奈川県横浜市出身。兄の影響で小学一年生からサッカーを始める。大学を卒業後、なでしこリーグ一部、二部を経験し、現在はなでしこリーグ二部に所属する、"社会でも一流、競技でも一流"をコンセプトに掲げる「FCふじざくら山梨」にてプレイングワーカーとして活動中。

サッカーに導かれた日々――横浜から全国へ広がったキャリア

6歳上の兄の影響で小学1年生からボールを蹴り始め、近所のジュニアチーム「磯子ファイターズ」で男子に混じってプレーした。当時はまだ女子クラブがほとんどなく、女子1人でボールを追いかける毎日だった。

中学からは「横須賀シーガルズ」に所属し、高校は全国大会常連の湘南学院高校へ進学。県外への強豪校への進学も考えたが、神奈川県にある高校から全国を目指す道を選んだ。その後、群馬県にある関東学園大学に進学し、青春時代はサッカー漬けの日々で、「全日本大学女子サッカー選手権大会で優勝すること」を目標に駆け抜けた。

大学卒業後は、地元の「大和シルフィード」に入団し5年間プレー。経験を積んだ20代後半には、より高いレベルを求めて、2025年にはプレナスなでしこリーグ1部を優勝した強豪の「ラブリッジ名古屋」に移籍し、その後、再びシルフィードに戻った。

しかし、クラブの方針変更により契約満了を告げられ、「サッカー人生を終えるかもしれない」という大きな壁にぶつかる。この時の心境を「納得のいく終わり方ではなかったので、引退は迷った。ここまでやってきた自分のためにも、応援してくれている家族やファンサポーターの方のためにもまだ頑張りたいという気持ちが、続ける決断に至った」と振り返る。

気持ちが揺れる中、「FCふじざくら山梨」への練習参加を打診し、次年度になでしこリーグ2部へ昇格予定であったクラブから正式オファーを受けた。こうして山梨に拠点を移し、2025年シーズンで3年目を迎えるキャプテンとなった。2025年6月にはリーグ戦通算150試合出場を達成しており、豊富な経験でチームを支えている。

「プレイングワーカー」という新しい生き方

FCふじざくら山梨を支える大きな特徴が「プレイングワーカー」というコンセプトだ。同クラブを運営する富士観光開発株式会社は、選手全員を正社員として雇用し、競技と仕事の両立を支援している。クラブサイトでも「競技力と社会性を備えたプレイングワーカーを育成し、引退後も自らの強みで社会に貢献できるようにする」と掲げている。

その理念に共感し、「サッカーを引退した後、何をすれば良いのかイメージできなかったが、このクラブでは現役のうちから自分の強みを見つけて次のキャリアにつなげることを徹底してくれる」と語る。

プレイングワーカーとしての生活は規則的である。火曜日から金曜日までは朝8時から午後4時まで「富士緑の休暇村」でフロント業務や厨房補助の仕事をこなし、夕方5時から夜7時まで練習する。月曜日は休養日で、週末は試合に臨む。

プレーヤーは全員同じ会社に勤めているため、同じ時間帯に練習できる。「1つの会社で全員が働くので足並みがそろう。初めての経験でありがたい」という。別のクラブでは選手が個別に雇用先へ散らばり、勤務時間も休みもバラバラであることが多い。セカンドキャリアに目を向ける余裕はなかったそうだ。

また、女子サッカー界では、引退後の働く選択肢が少なかったり、ネクストキャリアに不安を抱えている選手も少なくないという。そんな中、FCふじざくら山梨では選手が自分の興味を深堀りし、新しい仕事を生み出すことを歓迎している。クラブのGM(ゼネラルマネジャー)が定期的にビジネスマナーや企画の講義を行い、興味があればすぐに「やってみなよ」と背中を押してくれる。

「競技面に集中するクラブが多い中で、引退後をイメージして動くクラブは珍しい。ここに来て自分の世界が広がった」と菅さんは語る。選手たちは自分の興味をもとにグッズ開発にも携わり、営業やマーケティングの経験を積んでいる。

地域とともに生きる――山梨での暮らしと地域貢献

クラブの使命には、選手を地域社会と結び付けることもある。「地域に愛されるクラブ」を掲げ、サッカー教室や農業活動、世代間交流を積極的に行っている。幼稚園や小学校を訪問してボール遊びやリズム運動を教えるサッカー教室は、子どもたちが体を動かす楽しさを知るきっかけになる。選手たちが自ら指導することで親しみが湧き、試合で応援してくれる子どもや保護者も増えるという。

また、ふじざくらファームでは、地元の農家の方にサポートしていただきながら季節の野菜や米を育てる。収穫した食材は地元スーパーやイベントで販売したり、お弁当にして地域に届けたりしている。農業に携わることで食や環境への意識が高まり、選手自身も「地産地消の大切さ」を実感していると話す。

世代間交流を目的とした「孫の手活動」は、地元のおばあちゃんたちが生きがいを感じられる場所づくりだ。パートナー企業様の横断幕が破れた際に修繕してもらったり、一緒に食事を楽しんだりすることで、孤立を防ぎ、笑顔を生み出している。「おばあちゃんが活躍できる場所をつくりながら、私たちも応援してもらえるし、クラブの推し活をすることで健康的に過ごしてもらえる」と菅さんは語る。

地域との距離の近さは生活の中でも実感できる。買い物に行けば「FCふじざくら山梨の選手ですか?」と声を掛けられ、応援の言葉をもらうこともしばしばだ。「ここでは『頑張ってね』と気軽に応援してくれる方が多い。これまで所属した地域の中で最も知名度が高いと思う」と菅さんは嬉しそうに語る。

サポーターの熱量も高く、ホームゲームはもとよりアウェー戦にも多くの旗が並び、WEリーグにも負けない雰囲気をつくり出す。富士北麓地域のファンだけでなく県外からの遠征組もおり、「旗の数や声援の迫力はなでしこリーグで一番だと思う。県外から応援してくれる方もいるので期待に応えたい」と力を込める。彼女自身も「FCふじざくら山梨を地域の誇りとエネルギーの源にしたい」と綴っており、その思いは今も変わらない。

そして、富士山を望む生活は彼女のお気に入りの1つになった。「いつ見ても感動する富士山が毎日見える。新鮮な野菜やフルーツもおいしく、人々も温かい」と笑顔で語る。休日にはチームメイトと食事に出かけたり、地元の温泉でリラックスしたりしている。練習や仕事の合間に自然に癒される環境が、彼女の心身を整えている。

サードプレイスへの関心と地方創生への視野

山梨で暮らしながら、菅さんは「サードプレイス」という概念に魅力を感じるようになった。職場でも家庭でもない第3の場所に人々が集い、利害関係なしに語り合い、自分らしくいられる空間をつくること。「移住者も多いので、山梨の魅力や温かさを伝えられる場所を作りたい」と目を輝かせる。

河口湖周辺では移住者同士の交流会やワーケーション拠点が増えており、菅さんもオフの時間に顔を出す。「オフザピッチ活動にも力を入れている選手」というイメージがクラブ内に根付いていることもあり、地域の企画会議にも積極的に参加する。

「興味があることがあればまずGMに相談する。すぐに『やってみなよ』と背中を押してくれる」と言う。こうした姿勢が地域との新しい接点を生んでいる。

動物への関心も子どもの頃から変わらない。祖父母の家に犬がいた影響で小学生の卒業文集には「サッカー選手とトリマーになることが夢」と書いたほど。現在も保護犬団体と連携し、支援物資収集や啓発活動をを手伝っている。「動物だけで生活するのは難しいけれど、好きなこととして地域への恩返しに生かしたい」と話す。

現在、ドッグウェアのプロデュースや資格取得にも挑戦中だという。クラブで培った行動力と人脈を生かし、将来は人と動物が共存できる場所づくりにも挑戦したいというビジョンを描く。こうしたクラブでのOFF THE PITCH(オフザピッチ)活動でさまざまな人と出会った経験が、地方創生やまちづくりへの興味を芽生えさせた。

スポーツだけではなく、多方面で協力しながら地域課題を解決していく姿勢は、Local Quest Labが掲げる「個人と社会の接点と循環をつくる」というミッションとも重なる。彼女は「自分の興味と地域の課題をつなぎ、多様な人が集まれるサードプレイスをつくりたい」と語り、今後はクラブと地域を起点に新しい接点を増やしていきたいと考えている。

競技者としての責任と目標

FCふじざくら山梨は2019年創設の若いクラブだが、選手育成や地域貢献と同時に、競技成績でも上位進出を目指している。2025年シーズンは勝点差僅差の接戦の末、5位に終わり、入替戦出場を逃した。

クラブが掲げる目標はなでしこリーグ1部昇格であり、菅さんは「来季は昇格が必須。いつまでも2部に定着するわけにはいかない」と語る。昇格を果たすには、選手の覚悟とクラブ全体の本気度が問われる。「まずはサッカーで結果を出してこそ、オフザピッチ活動での評価も高まる」と菅さんは強調する。

競技の勝利、クラブの経営、地域への貢献という3つの柱を同時に追求する難しさを感じつつも、「それがクラブにとって重要だと」と理解している。

クラブではゼネラルマネジャーやスタッフが定期的に選手へ経営状況や収支構造を説明する。選手たちは自分たちのクラブがどのように事業化され、スポンサーやサポーターに価値を返しているのかを理解し、競技・事業・社会貢献を一体化させようとする。ビジネスマナー講座や企画作りの勉強会も開かれ、菅さんは欠かさず参加している。

「競技・事業・社会貢献のバランスは難しいけれど、少しでも差を埋めたい」と語る。こうした背景を知ることで、選手たちはピッチで勝つことが地域の期待やビジネスにもつながると自覚している。

個人としては、今シーズン終盤に怪我で離脱したことを反省し、「最後までプレーし続け、目に見える結果を出し、試合に出続ける選手でありたい」と意気込む。また、ピッチ外の活動を通じて影響力を高めることも重要だと考えており、興味あることには積極的に飛び込むと宣言している。

「現役だからこそ持てる影響力を最大限に生かし、その後につながる人脈をつくりたい」と話す。プレイングワーカーとして競技と社会貢献の両輪を回し続ける姿勢に、チームメイトやスタッフも刺激を受けている。

支えてくれる人たちへの感謝と、さらに続く物語

菅さんは自らを取り巻く環境に深い感謝を抱いている。なでしこリーグ150試合出場という節目を迎えられたのも、家族や友人が応援を続けてくれたからであり、共に汗を流してきたチームメイト、日々背中を押してくれるスタッフ、そして、スタンドから熱い声援を送り続けるサポーターのおかげだ。

「支えてくれる人たちの応援や声援が選手の力になる。FCふじざくら山梨の仲間、ファン、地域の方々に恩返ししたい」と力を込める。彼女は「皆さんがつくり出してくれる一体感が大好きで、その雰囲気に背中を押される」と話す。公式プロフィールでは、「チームを一体となって応援する皆さんの力が私たちの力。共に闘いましょう!」とメッセージを送っている。

また、将来像として「信頼される、行動力のある人間。人と人を繋ぐまちづくりや場所づくりをしたい」と掲げている。こうした言葉の通り、彼女は競技者、キャプテン、会社員、そして地域をつなぐプレイングワーカーとして、今日も全力で走り続けている。


Local Quest YAMANASHIが掲げる「関わる・暮らす・働く・学ぶ・旅する」の接点づくりは、菅さんの歩みと重なる。サッカーを通じて山梨に関わり、地元企業で働きながら学び、地域での出会いを旅するように楽しむ姿は、多くの人に新しい挑戦のきっかけを届けるだろう。

サッカー選手として頂点を目指すと同時に、地域と人とをつなぎ未来を切り開く菅さんの物語はまだ途中である。フィールドでも地域でも自らの意思で新しい世界を創り出す彼女の姿を私たちは応援したいと思う。


<菅百花さんに関する関連リンク>
Instagram:https://www.instagram.com/mokasuga_1112/
X:https://x.com/mokasuga28
FCふじざくら山梨(ホームページ):https://www.fujizakura-sc.jp/


取材:鈴木 斗樹
執筆:萬里小路 忠昭

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