
Local Quest Labの活動拠点である山梨で活動する人・企業・団体等へのインタビューを通じて、地域内外の人たちに「関わる」「暮らす」「働く」「旅する」「学ぶ」のきっかけ(接点)と地域とのつながり(循環)をつくるプロジェクト「Local Quest YAMANASHI」。
今回、山梨県富士河口湖町を拠点に活動するカヌーインストラクターであり、競技選手、メンタルコーチとしても活動する平岩達樹さんにインタビューをした。
水上でのスピードを追い求めるアスリートとしての顔と、自然の中で子どもたちに笑顔を届ける指導者としての顔。その両方をもちながら、富士河口湖町という土地に根を下ろして生きる彼の歩みには、「個人と社会の接点と循環をつくる」という私たちLocal Quest Labのミッションを体現するようなストーリーが詰まっている。
スキー少年だった彼が、なぜカヌーを人生の軸にし、いま何を見つめているのか。静かに熱く、真っすぐなその想いに耳を傾けた。

1996年神奈川県相模原生まれ。3歳からスキーを始め、小学6年からカヌー競技に挑戦。中学、高校、大学と続け、2022カヌーワイルドウォーター競技で世界選手権に出場。自分が携わってきたカヌー・カヤックの楽しさをたくさんの方々に伝えるためにインストラクターをしている。
「自分の趣味がそのまま仕事になって、仕事終わりにも湖で漕げる。そんな暮らしができる場所って、なかなかないですよね」
平岩達樹さんは神奈川県相模原市出身で、2021年に富士河口湖町に移住。富士五湖の1つである西湖で活動するカヌーインストラクターで、かつては国体優勝、日本代表に選出されたカヌー競技者である。
幼少期は3歳からスキーをはじめ、その後知り合いの紹介でカヌー体験をする。試しに出てみたレースで惨敗したが、乗り物を漕いで競争することが楽しく、選手としての道を進むことを決めた。現在も競技と並行しながら、地元の自然を活かした体験活動を提供している。
「子どもたちの『楽しかった!』という笑顔がなによりのやりがいです」
修学旅行やボーイスカウト、企業研修など幅広いニーズに応じたカヌー体験を提供する中で、彼が常に大切にしているのは「まずは自分が楽しむ」こと。その楽しさの循環が、新たな笑顔を生み、また次の誰かを呼び込む。
最近では団体向けだけでなく、個人向けの川下り体験を事業化する準備も進めており、山を越えて静岡県にまたがる富士川や、長野県・安曇野の美しい川でのアクティビティも視野に入れているという。「より自然をダイレクトに感じられる体験を提供していきたい」と語る姿には、探究心と挑戦心がにじむ。
「富士河口湖の魅力は、観光地でありながら、日常の暮らしと地続きなところ。街中にあるスーパーの3階からでも絶景が見えるって、東京じゃ考えられないですよね」

大学卒業後、日本代表として世界選手権を目指していた中、コロナ禍で大会が中止に。時間ができて、練習を続けつつ、自分が本当にやりたいことを考えるようになった。
自らカヌーを続けられる場をつくれないかと模索していたとき、偶然出会ったのが現在務める会社の社長。話すうちに社長の「修行」という言葉に惹かれ、富士河口湖町に移住。カヌー体験の受け入れを軸に活動を開始した。
「都会ではできない体験を、ここでなら届けられる。ここの水の透明度は子どもたちが『これ飲めますか?』と聞いてくるほど。そんな体験って、心に残ると思うんです」

一方で、冬シーズンはカヌーの仕事が少なくなる。何かもう一つ仕事をと考えたとき、たどり着いたのが“メンタルコーチ”だった。
かつて競技者としての自分を支えてくれたメンタルコーチの存在がヒントに。今ではカヌーポロU-21日本代表選手やゴルフ選手、障がい者スキーヤーなどのサポートを行う。自身のアスリート経験が、支援の説得力にもつながっている。
「目指しているのは“その人が本当にありたい姿”を一緒に探す関わり方。人の人生を後押しできる存在でありたいです」
メンタルコーチのニックネームは「まぐろ」。動き続ける魚のように、止まることなく走り続ける平岩さんのスタンスを象徴している。子どもたちにも親しみやすく、活動の幅を広げる大きな武器になっている。

夏はインストラクター、冬はメンタルコーチ。自分のライフスタイルに合わせて、仕事のスタイルも変えていけるのがいいところだと語る。
冬場は北海道や長野に滞在し、スキーインストラクターとしての研修にも取り組む。子どもたちと接する中で、「年齢ごとに響く言葉や動きは全く違う」と語る。
「小さい子には歌やジェスチャー。小学生になるとクイズや言葉で接する。人に合わせて伝え方を変えるのって、教える上で大事なことだと気づかされました」
また、地元でのカフェ巡りを通して、自然と会話が生まれる人間関係のあたたかさにも魅力を感じている。
「お気に入りのカフェ『ハネノハ』は、景色も雰囲気も抜群。ひとりでカウンターに座って、近くの人に話しかけてみたいなと思えるようになりました」
かつては人と話すのが得意でなかった自分が、富士河口湖町で暮らす中で変化してきた。その背景には、地域と関わり続けることで培った“関係人口”的な視点がある。

「自分の人生の目標は“最高のおじいちゃん”になることなんです」
一見ユニークにも思えるが、そこには深いルーツがある。それは幼少期に祖父と過ごした濃密な時間、釣りや旅行、手仕事・・。すべてが自分の人生観を形づくった。
「孫にとって“楽しかった”と思える時間をたくさん作れる、そんな存在になりたい。そのために、今できることを積み重ねています」
富士河口湖町という土地の子育て環境や暮らしやすさにも魅力を感じており、「自然が豊かで、安心して子育てができる。都会にはないこういう場所の良さを一度味わってみてほしいです」

「自分の好きなことと得意なことを掛け合わせながら、誰かの背中を押せたら。それが自分にとっての幸せです」
自身のSNSでは、日々の活動や景色、想いを発信している。その中には、かつてのカヌー仲間などから「お前の生き方、楽しそうでいいな」と声をかけられることもある。
「競技を引退しても、こういう道があるんだって知ってもらえたらいいなと。誰かの“やってみようかな”のきっかけになることはとっても嬉しいんです」

彼が日々漕ぎ続けるカヌーの時間は、ただの体験提供ではない。自然の中で心をほどき、誰かとつながり、少し未来が変わる。そんな“接点と循環”が、ここ富士河口湖町で静かに育まれている。
「地域って、場所だけじゃなくて“人”も大切ですよね。この人に会いたい、この人の話を聞きたいって思ってもらえることも、地域に人を呼ぶきっかけになると思います」
もしあなたが、少し立ち止まって違う景色を見たいと思ったなら、透明な湖で待っている彼に会いに行ってみてほしい。
<平岩達樹さんに関する関連リンク>
湖の上商店:https://robroy-saiko.com/mizunoue/
Instagram:https://www.instagram.com/tatsuki_hiraiwa25/
取材:鈴木 斗樹
執筆:萬里小路 忠昭